弱者は決して許すことができない。許しは強者の態度である── ガンディー

決心する前に、完全に見通しをつけようとする者は、決心することはできない

── アンリ・フレデリック・アミエル『アミエルの日記』

Qui veut voir parfaitement clair avant de se déterminer ne se détermine jamais.

人物

アンリ=フレデリック・アミエル(1821–1881)。スイス・ジュネーヴに生まれ、同地で没した哲学者・詩人。 ジュネーヴ・アカデミー(のちのジュネーヴ大学)で 1849 年に美学、1854 年に道徳哲学の教授となった。 生前は詩集や評論を出しているが、ほとんど読まれなかった。 名が残ったのは、若い頃から死の直前まで書き続けた日記が没後に公刊されたからである。 決めきれない自意識をひたすら書き留めた記録として読まれてきた。

出典

日記そのものは膨大な手稿で、アミエルの死後に批評家のエドモン・シェレールが選んで『日記の断片(Fragments d'un journal intime)』として刊行した。 この一文は、その第 1 巻に入っている(本文で確認したのは 1884 年の第 2 版、パリのサンドー&テュイリエ/ヌーシャテル・ジュネーヴ刊、108 ページ)。

置かれているのは、日付の付いた記事の中ではない。 日付のない短い断章がアスタリスクで区切られて並ぶ箇所である。 その前にある日付付きの記事は 1856 年 12 月 17 日、後にあるのは 1857 年 2 月 3 日で、この断章はその間に入る。 英語圏の引用データベースにはこの一文を「1856 年 12 月 17 日の日記」として載せるものがあるが、選集の本文では断章に日付は付いていない。

日本語は 2 文のうち前半だけを訳したもの。原文はそのあとに「後悔を受け入れない者は人生を受け入れない」と続く。 「完全に見通しをつけよう」は "voir parfaitement clair"(完全にはっきり見る)で、比喩の元は視覚である。 「決心する」にあたる se déterminer は「自分を決定づける」で、態度を決める・腹を決めるに近い。

原文

Qui veut voir parfaitement clair avant de se déterminer ne se détermine jamais.
Qui n'accepte pas le regret n'accepte pas la vie.

直訳。 決断する前に完全にはっきり見ておこうとする者は、決して決断しない。 後悔を受け入れない者は、人生を受け入れない。

語句の和訳

原語 和訳 メモ
qui … …する者は 先行詞を含む関係代名詞。celui qui の省略
veut …しようとする vouloir(欲する)の 3 人称単数現在
voir clair はっきり見る 「事情がのみこめる」の意でも使う成句
parfaitement 完全に 副詞。clair を強める
avant de … …する前に 後ろに不定詞を取る
se déterminer 決断する 「自分を決定づける」。腹を決めるに近い
ne … jamais 決して…しない 否定の強調
n'accepte pas 受け入れない accepter(受け入れる)の否定
le regret 後悔 単数定冠詞。個々の後悔ではなく「後悔というもの」
la vie 人生 同じく総称の定冠詞