成し遂げんとした志を、ただ一回の敗北によって捨ててはいけない
── ウィリアム・シェイクスピア『テンペスト』
Do not, for one repulse, forego the purpose that you resolved to effect.
人物
ウィリアム・シェイクスピア(1564–1616)。イングランドの劇作家・詩人。 ストラトフォード・アポン・エイヴォンの手袋商の家に生まれ、ロンドンで俳優兼座付き作者として働いた。 『ハムレット』『マクベス』などの悲劇、『夏の夜の夢』などの喜劇、歴史劇を合わせて 37 編前後と、154 編のソネットを残した。 劇団の株主でもあり、稼いだ金で故郷に土地を買って帰った。 生涯の記録は洗礼・結婚・訴訟・遺言といった断片しかなく、人物像はほぼ作品から推測されている。
出典
『テンペスト』第 3 幕第 3 場、11–13 行目。 ネット上では「テンペスト 3 幕 3 場」と紹介されることが多く、この出典表示は正しい。 Project Gutenberg にあるケンブリッジ版(W. G. クラーク/W. A. ライト編、1863 年)の本文で確認した。
ただし場面は志の話ではない。 ナポリ王アロンゾー一行が魔法の島をさまよい、疲れ果てて座り込む。 王の弟セバスチャンと、前ミラノ公アントーニオは、前の晩に王を寝込みで殺そうとして失敗している。 王が息子を失ったと思い込んで気落ちしたのを見て、アントーニオがセバスチャンにささやくのがこの台詞。 直後に「今夜にしよう、疲れているから見張りも甘い」と続く。 言っているのは王位簒奪をたくらむ側で、内容は暗殺計画を諦めるなという催促である。
日本語訳は purpose(企て・意図)を「志」、repulse(撃退される・はねつけられる)を「敗北」と置き換えている。 原文にどちらの語も無い。 悪だくみを続けろというささやきが、努力を続けろという励ましとして流通している。
原文
Ant. [Aside to Seb.] I am right glad that he's so out of hope.
Do not, for one repulse, forego the purpose
That you resolved to effect.Seb. [Aside to Ant.] The next advantage
Will we take throughly.
直訳。 アントーニオ(セバスチャンへの傍白)。あの男がすっかり望みを失ったのは実にありがたい。一度はねのけられたくらいで、あなたが遂げると決めた企てを捨ててはいけない。 セバスチャン(アントーニオへの傍白)。次の機会は徹底的にやろう。
語句の和訳
| 原語 | 和訳 | メモ |
|---|---|---|
| Ant. / Seb. | アントーニオ/セバスチャン | 前ミラノ公と、ナポリ王の弟。二人とも簒奪をたくらむ側 |
| Aside to … | …への傍白 | 舞台上の他の人物には聞こえない設定の台詞。この場面が内緒話であることを示す |
| out of hope | 望みを失って | 王アロンゾーが息子の生存を諦めた状態を指す |
| for one repulse | 一度はねつけられたくらいで | repulse は「撃退」。軍事的に押し返される意味合いで、負け戦全体ではない |
| forego the purpose | 企てを捨てる | forego はここでは forgo(放棄する)。版によって綴りが違う |
| the purpose that you resolved to effect | 遂げると決めた企て | resolve は「決意する」、effect は動詞で「実行する・成し遂げる」 |
| The next advantage | 次の好機 | advantage は「有利な機会」 |
| take throughly | 徹底的にものにする | throughly は thoroughly の古い綴り |