自愛・自識・自制、この三者だけが人生を導き、高貴な力にいたらしめるものである
── テニスン
Self-reverence, self-knowledge, self-control, These three alone lead life to sovereign power.
人物
アルフレッド・テニスン(1809–1892)。イギリスの詩人。 リンカンシャーの牧師の家に生まれ、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに学んだ。 親友アーサー・ハラムの早すぎる死を悼んで 17 年かけて書いた『イン・メモリアム』(1850 年)で名を得て、同じ年にワーズワースの後を継いで桂冠詩人になった。 その職に 40 年以上あり、1884 年に男爵に叙された。 ギリシア神話とアーサー王伝説を題材に、音の連なりで押していく詩を書いた。
出典
詩「イノーネ(Œnone)」の一節。 パリスの審判を、パリスに捨てられる妻イノーネの側から語る詩で、全体がイダ山でのイノーネの独白の形をとる。 引用部分は、その独白の中でイノーネが再現する女神パラス・アテーネーの言葉。 ヘーラーが権力を、アプロディーテーが美女を差し出したのに対し、パラスは贈り物では釣らないと言い、この三つを挙げる。
一次資料で確認した。 1832 年(奥付は 1833 年)刊の詩集で初めて発表され、1842 年の詩集で大幅に書き直されている。 流布している「これら三つだけが人生を至高の力へ導く」の形は書き直し後のもので、初出はまったく違う言い方だった(両方を後に挙げる)。 書き直し後の本文は Wikisource にある 1843 年版『詩集』第 1 巻 125 ページ、初出は Internet Archive にある 1833 年版のスキャン本文で照合した。
日本語の「自愛」は self-reverence の訳としてずれている。 self-reverence は自分を敬うこと(自尊)で、自分をかわいがること(自愛)ではない。 「高貴な力」も sovereign power(至高の力・主権の力)の意訳で、原文は身分の高さではなく、自分を統べる力を指している。
原文
1842 年の書き直し後(1843 年版第 1 巻 125 ページ)。パラスの言葉。
'Self-reverence, self-knowledge, self-control,
These three alone lead life to sovereign power.
Yet not for power, (power of herself
Would come uncall'd for) but to live by law,
Acting the law we live by without fear;
And, because right is right, to follow right
Were wisdom in the scorn of consequence.'
直訳。 自分を敬うこと、自分を知ること、自分を制すること。この三つだけが、生を至高の力へ導く。 とはいえ力のためではない(力は呼ばずとも自ずから来る)。法によって生きるため、私たちが従って生きている法を、恐れずに行うためだ。 そして、正しいことは正しいのだから、結果を顧みずに正しいことに従うのが知恵だろう。
1832 年の初出では、同じ箇所がこうだった(Internet Archive のスキャン本文による。複合語を続け書きにする初期テニスンの綴りのまま)。
' Selfreverence, selfknowledge, selfcontrol
Are the three hinges of the gates of Life,
That open into power, everyway
Without horizon, bound or shadow or cloud.
直訳。 自分を敬うこと、自分を知ること、自分を制すること。これらは生の門の三つの蝶番であり、その門は、地平も境も影も雲もない力へ、あらゆる方向に開く。
十年かけて、門と蝶番という仕掛けの比喩が消え、「この三つだけが導く」という言い切りに変わっている。
語句の和訳
| 原語 | 和訳 | メモ |
|---|---|---|
| self-reverence | 自分を敬うこと | reverence は畏敬。自愛(self-love)ではない |
| self-knowledge | 自分を知ること | 「汝自身を知れ」の系統の語 |
| self-control | 自分を制すること | 三語とも self- で揃えた頭韻 |
| these three alone | この三つだけが | alone は「だけ」。他の道を否定している |
| lead life to sovereign power | 生を至高の力へ導く | sovereign は「主権を持つ・最上の」。自分を統べる力を指す |
| power of herself would come uncall'd for | 力は呼ばずとも自ずから来る | herself は power を女性名詞として受けたもの。uncall'd for は「求められずに」 |
| to live by law | 法によって生きるため | 目的の不定詞。力ではなくこちらが目的だと言い直している |
| in the scorn of consequence | 結果を顧みずに | scorn は「軽蔑」。結果を意に介さない態度 |
| Are the three hinges of the gates of Life | 生の門の三つの蝶番である | 1832 年の初出の言い方。1842 年に削られた |
| everyway without horizon, bound or shadow or cloud | あらゆる方向へ、地平も境も影も雲もなく | 同じく初出のみ。開けた空を力の比喩にしている |