問題なのは人生ではなく、人生に対する勇気だ
── ヒュー・ウォルポール
'Tisn't life that matters! 'Tis the courage you bring to it
人物
ヒュー・ウォルポール(1884–1941)。イギリスの小説家。 ニュージーランドのオークランドで英国国教会の聖職者の子として生まれ、イングランドの寄宿学校とケンブリッジで学んだ。 第一次大戦中はロシアで赤十字の活動と英国の宣伝業務にあたった。 多作でよく売れ、1937 年にナイトに叙されたが、死後は評価が下がった。 湖水地方の一族を四代にわたって描いた『ヘリーズ年代記』が代表作。
出典
長編小説『フォーティテュード(Fortitude)』(1913 年)の冒頭の一文。 第 1 部第 1 章の題は「勇気への手引き(Introduction to Courage)」で、その最初の行がこれにあたる。 Project Gutenberg にある本文で確認した。
場面はコーンウォールの港町、宿屋「ベンディング・ミュール」の広い台所。 クリスマスイヴで、船乗りや漁師の女たちが大きな火の前に集まっている。 戸口の暖かい隅にいる白髭の老人「フロステッド・モーゼス」が、誰にともなく言い放つのがこの言葉。 12 歳の少年ピーター・ウェストコットが、背の高い椅子の上でそれを聞き、胸の中で反芻する。 小説はこの一言を軸に、少年が父の家と貧困と失敗を通り抜けていく話として進む。
'Tisn't は It isn't、'Tis は It is の縮約で、老人の方言めいた口調を示す。 日本語の「問題なのは」は matters(大事である)の訳。 「人生に対する勇気」は the courage you bring to it(そこへ自分が持ち込む勇気)を縮めた形で、原文は「人生の側にあるもの」ではなく「自分が持ってくるもの」と言っている。
原文
“'Tisn't life that matters! 'Tis the courage you bring to it” ... this from old Frosted Moses in the warm corner by the door.
A little boy, Peter Westcott, heard what old Frosted Moses had said, and turned it over in his mind.
直訳。 「大事なのは人生じゃない。そこへ持ってくる勇気のほうだ」……戸口の暖かい隅にいる老フロステッド・モーゼスの言葉だ。 小さな男の子、ピーター・ウェストコットは、老フロステッド・モーゼスの言ったことを聞いて、頭の中で転がしてみた。
語句の和訳
| 原語 | 和訳 | メモ |
|---|---|---|
| 'Tisn't | それは〜ではない | It isn't の縮約。老人の口調を写した綴り |
| life that matters | 大事なのは人生(だということ) | it is … that … の強調構文。「人生が」を強めている |
| matters | 大事である | 動詞の matter。「問題である」より「重みがある」に近い |
| 'Tis | それは〜だ | It is の縮約 |
| the courage you bring to it | そこへ自分が持ってくる勇気 | you bring が courage を修飾する関係節。it は life を指す |
| bring to | 〜へ持ち込む | 勇気を人生の側の性質ではなく、自分の持参物として扱う言い方 |
| this from … | これは…の言葉だ | 動詞を省いた地の文。台詞の主を後から示す |
| old Frosted Moses | 老フロステッド・モーゼス | 白い髭から付いた渾名。frosted は「霜の降りた」 |
| in the warm corner by the door | 戸口のそばの暖かい隅で | 宿屋の台所の定位置。老人の身分と居場所を一語で示す |