トンネルの片端が、機器ではなく端末 1 台になる
社外の端末 1 台にファイアウォールが社内側の住所を貸し、社内から見て 1 台として扱えるようにする仕組みを、拠点間 VPN との差として 1 枚の図で見る
目次
図 11 の拠点間 VPN は、トンネルの両端がどちらも自分の機器でした。 勉強会ではもう 1 つ、社外の端末 1 台からつなぐ形も作りました。 片端が端末になると、その端末には社内の住所がありません。 この記事は、そこで何が増えるのかを 1 枚の図で見ます。
扱うのは、製品としてのファイアウォールの設定のやり方ではなく、端末 1 台とトンネルを張る仕組みの側です。 CCNA 200-301 v1.1 の出題範囲でいえば 5.5「Describe IPsec remote access and site-to-site VPNs」の、リモートアクセスの側にあたります。 ただし出題範囲の文言は IPsec で、勉強会で作ったのは TLS を使う方でした。その違いは下の「トンネルの張り方」で書き分けます。 製品名(AnyConnect)は、勉強会の資料と出典の呼び方をそのまま使います。
この連載は、ネットワークの言葉を 3 つの層に置いて読みます。 もの(物理か論理か)、結びつき(人が設定で付ける手動か、機器が学習する自動か、製造時に決まる固定か)、通信フロー(1 本の通信がそれらを順に通る道筋)の 3 つです。
図では、図 7〜12 のルータ 1 をファイアウォールに置き換えて描いてあります(外側 203.0.113.10・内側 192.168.10.1 はルータ 1 から引き継いだ番地)。
登場するもの
端末に入れた VPN ソフト
物理の端末に入れた論理のものです。 これがトンネルの片端になります。 図 11 では、片端は機器でした。
アドレスプール
ファイアウォールが貸し出す住所の在庫です(論理)。 範囲は人が決め(手動)、そこから 1 つ貸すのは自動です。
端末に増える VPN 用の口
論理の口です。 トンネルが張れている間だけ存在し、借りた住所が付きます。 借りた住所の番地(192.168.110.0/24)は、社内 LAN(192.168.10.0/24)とは別です。
認証サーバ
誰かを答える係です。 この構成では、名前と合言葉の照合をファイアウォール自身では行わず、データセンター側の認証サーバ(AD/LDAP)へ問い合わせます。 機器の中に台帳を持つ設定もできるので、ファイアウォールが持たないとまでは言えません。
トンネルの張り方
勉強会で作ったのは TLS を使う方で、受け口は TCP 443 番です。 設定ガイドには、TLS でつなぎ、任意で DTLS(データグラム輸送=UDP の上で動く TLS)も使うと書かれています。 同じガイドには IPsec/IKEv2 でつなぐ道もあり、その場合は図 11・図 12 と同じ形です。
結びつき
- 利用者 ⇄ 貸した住所は自動です。誰にどの住所を貸したかは、ファイアウォールの表に残ります。
- 名前と合言葉 ⇄ 本人の照合は、この構成では認証サーバが持ちます。図 18 の分担と同じ形です。
- 借りた住所の番地 ⇄ 社内への経路は手動です。
通信フロー
① 端末の VPN ソフトが、外側 IP(203.0.113.10)の TCP 443 番につなぎに行きます。外から始まる通信ですが、この 1 つだけは図 22 の関門で開けてあります。
② ファイアウォールが、名前と合言葉を認証サーバへ問い合わせます。
③ 通れば、在庫から住所を 1 つ貸します。端末に VPN 用の口が増え、そこに借りた住所(192.168.110.20)が付きます。
④ 社内あて(192.168.10.20)の通信は、借りた住所を送信元にしてトンネルの中に入ります。ファイアウォールがほどいて社内へ流します。
⑤ 帰りは、社内から借りた住所あてに返ります。ファイアウォールはその住所を貸した相手を表で引き、同じトンネルへ入れ直して端末に返します。
図 23
図の上半分が構成図とフローの番号、下半分がアドレスプールと表の推移、通信の中身の推移です。 ④ の行は、外側の欄と封から先の読めない部分とが、上下の括弧で対になっています。
図 11・図 18・図 22 との接続
図 11 との違いは、トンネルの片端が機器ではなく端末 1 台であることです。 図 11 では、両端の社内の番地が最初から決まっていました。 端末には社内の番地が無いので、住所を貸す仕組みが要ります。
図 18 では、スイッチが RADIUS サーバに問い合わせました。 ここではファイアウォールが AD/LDAP に問い合わせます。 問い合わせ先ともらう答えが違うだけで、分担の形は同じです。
図 22 とは、箱が同じファイアウォール 1 です。 外側の TCP 443 番は外から新しく始まる通信なので、図 22 の関門では本来止まります。そこだけを開けてあります。 図 9 の ACL は、ここでは通す・通さないではなく、どの宛先をトンネルへ入れるかを選ぶ道具になります(スプリットトンネル)。
未検証・注意
- DTLS が既定で使う番号は、設定ガイドに書かれていないため確認できていません。設定で変えられること(
dtls port)だけが確認できました。 - 勉強会で設定したのは TLS を使う方だけです。IKEv2/IPsec のリモートアクセスは試していません。
- スプリットトンネルは勉強会の資料に設定がありません。Cisco の設定例で確かめた内容として図に書き、資料の外であることも図に書いてあります。動きは確かめていません。
- 貸した住所が、切断後どれくらいで在庫に戻るかは確かめていません。
- 認証サーバへの問い合わせの線は、図を混ませないため 1 本にまとめて描いてあります。実際はルータ 2 を経由します。
- 勉強会での観察として書いたこと。トンネルを張る前は社内サーバへの ping が届かず、張った後は届きました。端末の住所が、元のものから借りたものに変わりました。つながった後の表示には、TLS のトンネルと DTLS のトンネルの 2 本が出ていました。
- 製品名の表記は、勉強会の資料どおり AnyConnect のままにしてあります。改称の有無は確かめていません。
出典
- 勉強会での本人の観察(2026-09-13 実機ハンズオン。資料は非公開)
- Cisco: AnyConnect VPN Client Connections(ASA 9.20) — 「When the client negotiates an SSL VPN connection with the ASA, it connects using Transport Layer Security (TLS), and optionally, Datagram Transport Layer Security (DTLS).」/
ip local pool poolname startaddr-endaddr mask maskでアドレスプールを作る/「The Secure Client provides secure SSL and IPsec/IKEv2 connections to the ASA for remote users.」/dtls portで番号を設定する - RFC 6347: Datagram Transport Layer Security Version 1.2 — 「The DTLS protocol is based on the Transport Layer Security (TLS) protocol and provides equivalent security guarantees.」
- Cisco: AnyConnect の設定例 — ウィザードで設定すると Split Tunnel は既定で Tunnelall になる/一覧で指定する形は
split-tunnel-policy tunnelspecifiedとsplit-tunnel-network-list - インフラエキスパート: Cisco ASA SSL-VPN — クライアント型 SSL-VPN で配る住所の範囲を
ip local poolで決める - CCNA 200-301 v1.1 出題範囲 — 5.5「Describe IPsec remote access and site-to-site VPNs」
関連
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ネットワーク_INDEX — 連載の目次
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連載の入口: ネットワーク_00_3層で言葉を置く(
/notes/nw-basics-00-three-layers) -
前の記事(図 22): ネットワーク_22_ファイアウォール(
/notes/nw-basics-22-firewall) -
次の記事(図 24): ネットワーク_24_端末の認証(
/notes/nw-basics-24-endpoint-check) -
土台になる記事(図 7): ネットワーク_07_インターネットを挟む(
/notes/nw-basics-07-internet) -
拠点間 VPN の側: ネットワーク_11_IPsec(
/notes/nw-basics-11-ipsec)
この記事の校閲記録
誰が・いつ・どの版の・どの段落を・何の観点で見て、何と言ったかを全件そのまま出す(追記のみ・削除しない)。
段落 36 のうち出典つき 15・出典なし 21
v1 2 件
AIAI (claude-fable-5) が AI 確認未解決
接続が TLS で、任意で DTLS も使うこと(『it connects using Transport Layer Security (TLS), and optionally, Datagram Transport Layer Security (DTLS)』)、アドレスプールを ip local pool で作ること、IPsec/IKEv2 の接続も選べること、DTLS の番号を dtls port で設定できることを Cisco の設定ガイドで確認した。DTLS が TLS を土台にして同等の安全性を持つとされることを RFC 6347 の要旨で確認した。スプリットトンネルの既定が tunnelall で、一覧を指定する形が tunnelspecified であることを Cisco の設定例で確認した。ip local pool で配る住所の範囲を決めることをインフラエキスパートで確認した。CCNA 5.5 の文言『Describe IPsec remote access and site-to-site VPNs』を出題範囲の本文で確認し、勉強会で作ったのは TLS を使う方なので、その食い違いを本文に書いた。DTLS が既定で使う番号は設定ガイドに記載が無く未検証と書いた。守秘: 実名・社名・会場名・地名・金額なし
AIAI (claude-fable-5) が 編集未解決
公開前の校閲。frontmatter のタグ security を「セキュリティ」に揃えた。関連の前後の記事へのリンクに /notes/ のパスを足し、拠点間 VPN の側(図 11)への行を足した。貸し出す住所の網 192.168.110.0/24 は連載のアドレス計画に登記が無い番地なので、判断を仰ぐ項目として報告に残し、本文は変えていない。
参考文献
- 二次Cisco: AnyConnect VPN Client Connections(ASA 9.20)参照 2026-09-14
- 二次RFC 6347: Datagram Transport Layer Security Version 1.2参照 2026-09-14
- 二次Cisco: AnyConnect の設定例参照 2026-09-14
- 二次インフラエキスパート: Cisco ASA SSL-VPN参照 2026-09-14
- 二次CCNA 200-301 v1.1 出題範囲参照 2026-09-14
更新履歴
- 連載のトピックを「ネットワーク基礎」から「ネットワーク」へ改名(32 本+目次。slug と URL は不変)
- 公開: 連載「ネットワーク基礎」図 8〜24 の記事 17 本と目次の更新
機械可読の記録
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