ルータ同士が同じ地図を持ち、各自が経路を計算する
図 5 で人が 1 行ずつ書いたルーティングテーブルの行が、OSPF ではどう自動で載るのか。Hello から O の行までと、線が切れたときの切替を 1 枚の図で追う
目次
図 5 では、遠くのネットワークへの行を人が 1 行ずつルーティングテーブルに書きました。 この記事で変わるのは、その行を誰が書くかだけです。 ルータ同士が「自分の持つネットワークとコスト」を教え合い、行が自動で載ります。 図 5 の ②「自分のテーブルで一致する行を探す」は変わりません。
この連載は、ネットワークの言葉を 3 つの層に置いて読みます。 もの(物理か論理か)、結びつき(人が設定で付ける手動か、機器が学習する自動か、製造時に決まる固定か)、通信フロー(1 本の通信がそれらを順に通る道筋)の 3 つです。
登場するもの
ルータ ID
論理のもので、ルータ 1 台を区別する 32 ビットの番号です。 手動で付けるか、設定しなければ機器が自分の IP から決めます。
隣接テーブルと LSDB
どちらも論理で、自動で育ちます。 隣接テーブルは、見つけた隣のルータの一覧です。 LSDB(リンクステートデータベース)は、どのルータがどのネットワークをコストいくつで持っているかの一覧で、同じエリアの全員が同じになります。
エリア番号とコスト
エリア番号は論理・手動で、OSPF を動かす範囲の区切りです。この図は area 0 だけを使います。 コストも論理で、既定は帯域から決まり、手で上書きできます。
DR・BDR
同じ区間に何台もつながるとき、全員同士ではなく代表者(DR)と副代表(BDR)とだけ隣接します。この役は自動で選ばれます。
結びつき
- インターフェース ⇄ OSPF を動かす範囲は手動です。PC 側の口は passive にして Hello を出しません。
- ルータ ⇄ 隣のルータは自動です。Hello を 10 秒ごとに出して見つけます。
- LSDB ⇄ ルーティングテーブルは自動です。最短経路の計算結果が O の行になります。この行の信用度(AD 値)は 110 です。
通信フロー
ルータ 3 台を area 0 で動かします。ルータ 1(支店)とルータ 2(データセンター)が直結し、ルータ 3 が迂回路です。
① ルータ 1 は、OSPF を動かすと決めたインターフェースから Hello を 10 秒ごとに出します。宛先は 224.0.0.5 です。
② 相手の Hello に自分のルータ ID が載っていれば、互いに見えている状態です(2-WAY)。
③ その区間の DR と BDR を選びます。優先度が大きい方、同じならルータ ID が大きい方です。
④ 隣接する相手と LSDB を突き合わせ、足りない分を LSA でもらいます。一致したら FULL です。
⑤ 全員の LSDB が同じ内容になった状態で、各ルータが自分を起点に最短経路を計算します。
⑥ 計算の結果が O の行としてルーティングテーブルに載ります。
⑦ 直結の口が down になれば、ルータ 1 は即座に計算し直して迂回路へ切り替えます。線はつながったまま Hello だけ来ない場合は、40 秒(Dead)待って隣を失ったと判断します。
遠くのネットワークの行を人が書かなくても、ルータが自分で載せ、切れたら書き直します。
図 13
図の上半分が構成図とフロー、中ほどが DR・BDR の別の例(4 台が 1 本の LAN にいる場合)、下半分がテーブルの推移と通信の中身の推移です。
図 5 で手書きした 192.168.3.0/24 の行は外しておきます。 同じ宛先の行が複数あるときは信用度(AD 値)の小さい行が勝つので、スタティックの 1 が OSPF の 110 に勝ち、O の行が載らないからです。
補 1 のフローティングスタティックは、予備の行を人が書いて眠らせる書き方でした。OSPF は予備の道も LSDB から計算し直すので、予備の行を書かずに済みます。
図 7 の 3 つの問題(途中のルータの経路表を書けない・社内の住所が運ばれない・中身が読める)は、OSPF では解けません。教え合えるのは自分たちのルータの間だけだからです。
次の図 14 からは「壊れても止まらない」の塊に入り、線を 2 本にします。
未検証・注意
- 切替に実際かかる秒数は測っていません。観察できたのは「パケットが数個落ちた後に復旧する」までで、図にも秒数を書いていません。
- DR・BDR で隣接の組数が減ること(4 台なら 6 組が 5 組)は、RFC 2328 1.2 の記述と組の数え方から書いています。通信量は測っていません。
- Hello 10 秒・Dead 40 秒は Cisco IOS の既定として実機の表示で見た値です。RFC 2328 Appendix C.3 は規格の決めごとではなく設定値の説明で、そこに Sample value が載っているのは HelloInterval だけ、Dead 40 秒という例示値は無い、という確認記録を図の担当から引き継いでいます。この記事を書くにあたっての取得では C.3 の本文まで届かなかったので、こちらでは読めていません。
- コストの既定は 10 の 8 乗 ÷ インターフェースの帯域です。この式では 100 Mbps も 1 Gbps も 1 に丸まり、道の優劣が付きません。図は手で付けたコスト(10 と 20)で描いています。ルーティングテーブルに出る 11 と 21 は、そこに相手の LAN 側インターフェースのコスト 1 を足した値です。
- EIGRP は Cisco が作った同類のプロトコルで、基本部分は RFC 7868(Informational)として公開されています。現行の CCNA(200-301 v1.1)の範囲表に EIGRP の記載はありません。
出典
- 勉強会での本人の観察(2026-09-13 実機ハンズオン。資料は非公開)
- RFC 2328: OSPF Version 2 — 9.4 代表者の選び方/10.4 隣接を組む相手/10.7 要求への返し方(Receiving Link State Request Packets)/13.3 配り直しの宛先/Appendix A.1 番号(224.0.0.5・224.0.0.6・IP プロトコル番号 89)
- Cisco: Review OSPF Frequently Asked Questions — OSPF uses a reference bandwidth of 100 Mbps for cost calculation(コスト=基準帯域 ÷ インターフェースの帯域)
- Cisco: Troubleshooting Duplicate Router IDs with OSPF — ルータ ID は手動設定、次にループバックの最大 IP、次に最大 IP の順で決まる
- RFC 7868: Cisco's Enhanced Interior Gateway Routing Protocol (EIGRP) — Informational、2016 年 5 月
関連
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ネットワーク_INDEX — 連載の目次
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連載の入口: ネットワーク_00_3層で言葉を置く(
/notes/nw-basics-00-three-layers) -
この記事が書き換える図: ネットワーク_05_行きと帰り(
/notes/nw-basics-05-static-route) -
予備の行を人が書く方法: ネットワーク_07a_フローティングスタティック(
/notes/nw-basics-07a-floating-static) -
前の記事(図 12): ネットワーク_12_IKE(
/notes/nw-basics-12-ike) -
次の記事(図 14): ネットワーク_14_STP(
/notes/nw-basics-14-stp)
この記事の校閲記録
誰が・いつ・どの版の・どの段落を・何の観点で見て、何と言ったかを全件そのまま出す(追記のみ・削除しない)。
段落 36 のうち出典つき 13・出典なし 23
v1 2 件
AIAI (claude-fable-5) が AI 確認未解決
出典 URL 5 本を再取得し、到達できることと引用の所在を確かめた。RFC 2328 は 10.7 が Receiving Link State Request Packets であることを確認。Appendix C.3 は今回の取得では本文まで届かず読めなかったため、Hello と Dead の例示値についての記述は図の担当の確認記録を引き継いだ(未検証として本文に明記)。コスト=基準帯域 100 Mbps ÷ インターフェース帯域は Cisco の OSPF FAQ、ルータ ID の決まり方は Cisco の Duplicate Router ID のページ、EIGRP が Informational の RFC 7868(2016 年 5 月)であることは RFC 本文で確認した。切替秒数・DR/BDR による通信量の削減・C.3 の本文は未検証として残した。校正チェックリストを通し、例え話・体言止め・結論の先取り・未定義語の初出を検査した。守秘: 実名・社名・会場名・地名・金額なし
AIAI (claude-fable-5) が 編集未解決
公開前の校閲。未検証・注意の RFC 2328 Appendix C.3 の項が、C.3 の中身を断定しながら次の文で「本文は読めていません」と述べていて食い違っていたため、断定の部分を図の担当からの引き継ぎとして帰属させ、こちらでは読めていないことと分けて書き直した。本文の「手で付けたコスト(10 と 20)」と図のテーブルの 11・21 がずれて見えるので、差が相手の LAN 側インターフェースのコスト 1 であることを同じ項に 1 文足した。DR・BDR の選び方(優先度が大きい方、同点はルータ ID が大きい方)、AD 値 110、隣接の組数 6 組→5 組、コストの式は図の担当メモと照合して修正していない。図の担当メモの未検証 6 項目が本文に引き継がれていることも照合した。
参考文献
- 二次RFC 2328: OSPF Version 2参照 2026-09-14
- 二次Cisco: Review OSPF Frequently Asked Questions参照 2026-09-14
- 二次Cisco: Troubleshooting Duplicate Router IDs with OSPF参照 2026-09-14
- 二次RFC 7868: Cisco's Enhanced Interior Gateway Routing Protocol (EIGRP)参照 2026-09-14
更新履歴
- 連載のトピックを「ネットワーク基礎」から「ネットワーク」へ改名(32 本+目次。slug と URL は不変)
- 公開: 連載「ネットワーク基礎」図 8〜24 の記事 17 本と目次の更新
機械可読の記録
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