PC に書ける出口は 1 つだけ
PC のデフォルトゲートウェイ欄には 1 つの IP しか書けない。その番地をルータ 2 台で分け合い、切り替わっても PC 側を触らずに済ませる仕組みを 1 枚の図で見る
目次
PC のデフォルトゲートウェイ欄には、IP を 1 つしか書けません。 そのルータが落ちたら、PC の設定を書き換えて回るか、通信が止まるかのどちらかです。
この記事は「壊れても止まらない」の塊の最後で、図 5 の続きです。 図 5 で PC-A の欄に書いた 192.168.10.1 を、ルータ 2 台で共有する番地に変えます。
この連載は、ネットワークの言葉を 3 つの層に置いて読みます。 もの(物理か論理か)、結びつき(人が設定で付ける手動か、機器が学習する自動か、製造時に決まる固定か)、通信フロー(1 本の通信がそれらを順に通る道筋)の 3 つです。
登場するもの
仮想 IP
論理のものです。 2 台で共有する番地で、PC のデフォルトゲートウェイ欄にはこれを書きます。この図では 192.168.10.1 です。 図 5 ではルータ 1 の口そのものがこの番地でした。ここでは番地を仮想 IP に譲り、ルータ 1 の実 IP を .11 にします。
仮想 MAC
論理のものです。 IPv4 では 00-00-5E-00-01-{グループ番号} と規格で決まっており、グループ 11 なら 0000.5e00.010b です。 機器に焼かれた MAC ではなく、グループ番号から作る番地です。
優先度と track と preempt
どれも論理・手動です。 優先度の既定は 100 で、大きい方が Master になります。 track は見張る対象で、その口が落ちたら決めた数だけ優先度を引きます。 preempt は優先度が高い方が Master を取り返すかどうかの設定で、既定は取り返します。
結びつき
- PC のデフォルトゲートウェイ欄 ⇄ 仮想 IP は手動です。一度書いたら、切り替わっても変えません。ここが VRRP の目的そのものです。
- 仮想 IP ⇄ どの機器が応えるかは自動です。優先度と広告で決まり、Master だけが ARP に応えます。
- 仮想 MAC ⇄ スイッチのどのポートの先にいるかも自動です。切替のときに新しい Master が出す ARP で書き換わります。
通信フロー
支店のルータをもう 1 台(ルータ 3)増やし、ルータ 1 を Master(優先度 105)、ルータ 3 を Backup(優先度 100)にします。
① PC-A は宛先が自分のネットワークの外なので、書いてあるデフォルトゲートウェイ 192.168.10.1 の MAC を ARP で聞きます。
② Master だけが応えます。返す MAC は自分の物理ポートの MAC ではなく、仮想 MAC です。Backup は応えません。
③ PC-A は宛先 MAC = 仮想 MAC でフレームを出します。スイッチは ② で覚えた「仮想 MAC → ポート 1」の行を見て転送します。
④ Master は 1 秒ごとに広告を出します(あて先 224.0.0.18・IP プロトコル番号 112)。Backup は聞いているだけです。
⑤ 広告が Master Down Interval(優先度 100 なら 3.609 秒)のあいだ届かないと、Backup が Master になり、仮想 IP と仮想 MAC をそのまま引き継ぎます。
⑥ 新しい Master は、仮想 MAC を送信元にした ARP を出します。スイッチは「仮想 MAC → ポート 2」に書き換えます。
書き換わるのは、スイッチの MAC アドレステーブルの 1 行だけです。PC-A の設定も ARP テーブルも変わりません。
図 16
図の上半分が構成図とフロー、中ほどが秒数の式と track・preempt、下半分が表示の推移と通信の中身の推移です。
図 5 の ①「A はデフォルトゲートウェイへ送る」の宛先が、特定の 1 台の口ではなく仮想の番地になります。② 以降のルータの動きは図 5 のままです。
図 2 の ARP(要求は全員あて、応答は 1 対 1)もそのまま効きます。違うのは、応える機器が 2 台のうち 1 台に決まっていることと、返す MAC が自分の口の MAC ではないことです。
次の図 17 からは「入口の管理」の塊に入り、PC が IP を受け取るところから見ます。
未検証・注意
- Master Down Interval は「Master が居なくなったと判断するまでの秒数」で、通信が復旧するまでの秒数ではありません。連続 ping が何発落ちるかは実装と設定にもよります(未検証)。
- track で優先度が下がったときの切替は、広告が途絶えるのを待つ経路とは別です。下がった優先度を載せた広告を Backup が受け取って取り返します。
- WAN 側の口が落ちた場合と、LAN 側の口そのものが落ちた場合は別です。後者ではそのグループが Init になり、優先度の比較に入りません。この Init は RFC 5798 6.4 の状態遷移と勉強会のログの一致から書いています。Cisco の実装でインターフェースの down が規格の Shutdown イベントに当たるかは確認していません(未検証)。
- HSRP と GLBP は、Cisco の文書にある同じ目的の仕組みです。上の設定ガイドに proprietary の語が見当たらなかったので、Cisco 独自とは書いていません。
- 勉強会では LAN 側と WAN 側で別々のグループを持たせていました。この記事は 1 グループに絞り、仮想 IP を実際に持っている機器(優先度 255)の構成も扱っていません。
- この図のルータ 3 は、支店に増やした 2 台目のゲートウェイです。図 13 で迂回路として出てくるルータ 3 とは別の機器で、名前が同じなだけです。
- 勉強会の設定はバージョン 2 相当です。仮想 MAC の形式・式・既定値・あて先は RFC 3768 でも同じでした。
出典
- 勉強会での本人の観察(2026-09-13 実機ハンズオン。資料は非公開)
- RFC 5798: Virtual Router Redundancy Protocol (VRRP) Version 3 — IPv4 case: 00-00-5E-00-01-{VRID}/Skew_Time:(((256 - priority) * Master_Adver_Interval) / 256)/Master_Down_Interval:(3 * Master_Adver_Interval) + Skew_time/広告間隔の既定は 100 centiseconds (1 second)/優先度の既定は 100/あて先 224.0.0.18・IP プロトコル番号 112/Backup は MUST NOT respond to ARP requests/preempt の既定は True
- RFC 3768: Virtual Router Redundancy Protocol (VRRP) — バージョン 2。仮想 MAC の形式、(3 * Advertisement_Interval) + Skew_time、広告間隔の既定 1 秒
- RFC 1112: Host Extensions for IP Multicasting — 6.4 An IP host group address is mapped to an Ethernet multicast address by placing the low-order 23-bits of the IP address into the low-order 23 bits of the Ethernet multicast address 01-00-5E-00-00-00 (hex)
- Cisco: First Hop Redundancy Protocols Configuration Guide — Configuring HSRP — HSRP は virtual MAC address and an IP address that is shared among a group of devices を提供する
関連
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ネットワーク_INDEX — 連載の目次
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連載の入口: ネットワーク_00_3層で言葉を置く(
/notes/nw-basics-00-three-layers) -
この記事が書き換える図: ネットワーク_05_行きと帰り(
/notes/nw-basics-05-static-route) -
ARP の土台: ネットワーク_02_同じネットワークの中(
/notes/nw-basics-02-same-network) -
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/notes/nw-basics-15-etherchannel) -
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/notes/nw-basics-17-dhcp)
この記事の校閲記録
誰が・いつ・どの版の・どの段落を・何の観点で見て、何と言ったかを全件そのまま出す(追記のみ・削除しない)。
段落 33 のうち出典つき 12・出典なし 21
v1 2 件
AIAI (claude-fable-5) が AI 確認未解決
出典 URL 4 本を再取得した。仮想 MAC の 00-00-5E-00-01-{VRID}、Skew_Time と Master_Down_Interval の式、広告間隔の既定 1 秒、優先度の既定 100、あて先 224.0.0.18、IP プロトコル番号 112、Backup は MUST NOT respond to ARP requests であることを RFC 5798 で確認し、仮想 MAC の形式・式・既定値が RFC 3768 でも同じであることを確認した。224.0.0.18 から 0100.5e00.0012 を導く対応付けは RFC 1112 6.4 で確認した。Cisco の HSRP の設定ガイドには proprietary の語が見当たらなかったため、HSRP・GLBP を Cisco 独自とは書いていない。切替で通信が戻るまでの時間、Cisco の実装でインターフェース down が規格の Shutdown イベントに当たるかは未検証として残した。校正チェックリストを通し、例え話・体言止め・未定義語の初出を検査した。守秘: 実名・社名・会場名・地名・金額なし
AIAI (claude-fable-5) が 編集未解決
公開前の校閲。この図のルータ 3 は支店の 2 台目のゲートウェイで、図 13 で迂回路として出てくるルータ 3 とは別の機器なので、連載を通して読む人が同じ機器と読まないよう、注に 1 行足した。「②以降」を他の記事と同じ「② 以降」に直した。仮想 MAC 0000.5e00.010b、Master Down Interval 3.609 秒、あて先 224.0.0.18 は出典の式と値から再計算して一致を確認した。
参考文献
- 二次RFC 5798: Virtual Router Redundancy Protocol (VRRP) Version 3参照 2026-09-14
- 二次RFC 3768: Virtual Router Redundancy Protocol (VRRP)参照 2026-09-14
- 二次RFC 1112: Host Extensions for IP Multicasting参照 2026-09-14
- 二次Cisco: First Hop Redundancy Protocols Configuration Guide — Configuring HSRP参照 2026-09-14
更新履歴
- 連載のトピックを「ネットワーク基礎」から「ネットワーク」へ改名(32 本+目次。slug と URL は不変)
- 公開: 連載「ネットワーク基礎」図 8〜24 の記事 17 本と目次の更新
機械可読の記録
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